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インプレしてもらいました その3 → Shinichiro Iwaoさん編

たーみーさんのご厚意で少しの間使用させていただいたLakland 55-94についてレポートさせていただきます。

この楽器は(薄めの)メイプル化粧板をトップに貼ったブックマッチ・アッシュボディにメイプルネック、メイプル指板という構成で、ネックは柾目、指板はバーズアイと、材そのものは、普通に言ってトップグレードのものが採用されている。
エレクトロニクスは現行とは異なり、Lakland仕様のBartoliniが使われている。

基本的にFenderデザイン/Fenderトーンの進化形を目指しているが、創業者がリペアマン出身ということで、起こりうるトラブルへの予防的な措置とメンテナンス性を高める工夫が散見され、目立たぬところでもプロユースの水準を達成している。
弦楽器にとって命たるネックには、ボリュートと言ってよいヘッドの厚みがナット裏まで伸びており、なんともヘビーデューティーだが、Fenderでヘッド部が起き上がる経年変化に備えたものである。
私的には、マシンヘッドを採用する弦楽器一般は、アングルドでなければならないと思っていて、テンションを稼ぐ為のピンを設置する、なども根本的な誤りへの対症療法的な策に見えてしまうのだが、Fenderタイプの「ソリッドギター」を目指すのならフラットヘッドの伝統を守る態度をやむを得ないと百歩譲って、このようなLaklandの目の付け所は高く評価したい。

ところがハイはねを見越した、ハイポジションの凹みは、Sadowskyも採用するアイディアとして知られるが、余計なお世話である。
Laklandも比較的早く導入したPlekを利用して、精度の高い調整を施すとき、ハイポジションの弦高が下げられなくなってしまう。
もっとも、その分ローポジションのフレット高を落としてしまえばよいのだが、これでは本末転倒である。
しかし90年代の先端的な設計思想を、そこには読み取ることができる。

35インチスケールの5弦ベースを敬遠してきたけれど、これは22フレットと、指板長を抑えめにしているために、例えばFのオクターブをオールドスクールなディスコ調にスラップし続けるシーンを強いられても、なんとか妥協できる。
35インチ24フレットの楽器でE線1フレットに人差し指、D線3フレットに小指を置いて、サムとプラックを5分間8分音符で続けられますか? 私は途中で手首を壊します。
というわけで、小柄な日本人にもなんとか運用できるサイズに纏められており、立って弾いても、座って弾いてもストレスを感じることがなく、Fender系列のデザインの中で群を抜いて優れていると感じた。

お借りした楽器の内部のディップスイッチを、どういう設定に変更したか失念してしまったが、EQの効き方を数通りにカスタマイズでき、それによって気持ちの良いスラップトーン(実際にこちらを使用してイベントで"Run for cover"を演奏した)からレゲエトーン(沖縄のグループの曲を演奏した)まで、この一本だけで対応することができた。
PUは、ネック側のJBシェルだけでなく、ブリッジ側のMMシェルに含まれる2列のコイルが、いずれもサイドバイサイドのハムキャンセルになって、結果的に中央がディップになってしまっている。
A線の出力が弱めなのはLaklandの欠点としてよく指摘される点で、私もそれを感じた。
音色は、一言で述べると甘めのウォームなトーンであり、鋭さはEQのトレブルを上げてもさほどでない。

売りのMMがコイル選択できる機能は、特に気に入っている。
メーカーはネック側は60sの、ブリッジ側は70sのJBのトーンを得られると謳うが、実際は「そのようなもの」であるに過ぎない。
取付位置が異なっているからだ。
しかも、MM内部2列のコイルの中心線は27mm程離れているが、JBのブリッジPUがそれほど大きく移動されたわけではない。
ネック側のJBシェルもFenderのそれとは位置が異なっており、Laklandの楽器がJBのトーンを再現することはできない。
それでも、MMをどちらかの1列にし、曲に応じてネック側(上記を例に取れば沖縄曲で)、ブリッジ側(マーカスをやるとき)を選択し、EQを味付けに利用し、気分よく演奏ができた。
MMを単体で使用し、両コイルともオンにして、Stingrayを狙う、というのは、しかしながら行わなかった。
そのように使うにはPU自体がブリッジ寄りに過ぎる。

さて、お借りした楽器は事前の了解を得て、1時間ほどのイベント本番と、R&B系のライブの為のリハーサルで数回使用させていただいた。
そこでの感触がとても良かったので、自分用に楽器探しを始め、これの4弦バージョン"4-94 standard"というモデルの中古(2001年頃)を手に入れた。
ご存じの通り、4弦は34インチ、5弦が35インチスケールとなっている。
しかしボディはどうやらネックポケットを除いて共通のデザインのようである。

スケールが異なるのに、ボディにおけるPUざぐりが同一であることから、相対的には異なる位置にPUが取り付けられていることになる。
そこで、先に55-94のPU位置がFenderとは異なる点を指摘しているが、4弦でどうなのかも測定した。

比較対象はJBであるべきなのは重々承知だが、生憎そのリファレンスとなる楽器を所有しておらず、これは推量だが、60sJBと同じ位置ではないかと思っているSugiのNBシリーズ(これがJBタイプでのベストのPU位置と感じている)とくらべてみる。

位置は全て12フレットから、PUのセンター(MMの場合はコイルの真上)の距離であるが、素人計測ゆえ、誤差を含むものであることをご容赦願いたい。

  12f to neckPU 12f to bridgePU 12f to bridgePUcoil1 12f to bridgePUcoil2
Sugi NB 275mm 365mm - -
4-94 279mm - 348mm 375mm
55-94 284mm - 353mm 380mm

仮に55-94のスケールを34インチに見立てて距離を縮小するならば

  12f to neckPU 12f to bridgePU 12f to bridgePUcoil1 12f to bridgePUcoil2
55-94(34) 276mm - 343mm 369mm

と計算できる

このような違いによって、事実55-94で得られるトーンが4-94では出せず、痛痒を覚えた。
4-94のネックPUが4mmネック寄りであれば、MMのブリッジ寄りのコイルとの間で70sJBの位置を再現できそうなのに。
一方55-94はネックPUとMMのブリッジ寄りコイルとでJBと似た位置になり、使い勝手の良いトーンを裏付ける。

Laklandは55-94のプロトを、私の記憶が定かであれば、34インチで確か10数本作って、中の2本がほどほどのできとなったため(他は素晴らしかったと自画自賛)、35インチの採用を決めたとかなんとか、かつてのカタログでエピソードを読んだ。
それを踏まえてか、PUの配置が実用的なのは35インチスケールにおいてであり、4弦モデルは残念ながら専用に吟味されていない印象を持つ。

私は、90年代からゼロ年代まで、もちろんこの期間ずっと仕事としてベースを弾いてきているが、いくつか名を挙げるならSadowsky、Fodera、Warwick、Laklandなどに興味を持つことがなかった。
どちらかと言えば国産カスタムに信頼を置いていたし、多弦を前提にしてからも、お気に入りはごく狭い範囲の中で得られていた。
いわば視野の外にあったLaklandであるが、なるほど名著"American Basses / Jim Roberts"(2003)の表紙を飾るだけのことはある、アメリカを代表するコンテンポラリーな機種であることを、たーみーさんのおかげによって認識することとなった。

Laklandにはアーティストシグネチャーとして、よりFenderに近いトーンを狙った機種があり、行き届いた配慮と良材による作り込みの高さにより、Fenderの代替としても有用だが、オリジナルデザインの94シリーズは類希な汎用性を備えており、今や法外と言える高価格帯に属する点と流通の少なさを除けば、広く推奨できるブランドだったと思う。

ちなみにYoutubeではLaklandを使用した動画が数多く拾えるが、特にエデュケーターのEd Feridlandさんがアップしているものの中に、興味深いものがあった。彼はSKも使用しているが、Joe Osbornを使うこともあり、Laklandファンであるらしい。ウッドベースも中々の腕前で聞かせてくれる。興味の対象はChi-sonic PUを載せた44-94であり、標準のJ-MMコンビネーションに不満を覚えたプレイヤーにはこちらの方が良いのではないだろうか。


1.標題はelectro-harmonixのマイクロベースシンセやベースブロガーのレビューだが冒頭から数本のLaklandが顔を見せる。

メインに使用しているClassic(with 2x Chi-Sonic PU)はなかなか良い音をしている。

2.上と同じ楽器で、ルーパーを使って"Footprints"を演奏している。

クリニックのライブ画像なので音質は悪いものの楽器のバーサタリティがよくわかり、エドさんの素晴らしい演奏技術も楽しめる。

3.これを聴くと個人的に、Chi-sonic upgradeの44-94 Classicはかなり理想に近い気がする。

以下の1本目はレッスンビデオの冒頭デモ演で、2本目が本編。

本編は長い分、テクニックのみによる音質のバラエティが観察できる(07:11頃から)。

このタイプは実物を見たことがなく、非常に気になっている。

(2013/09/14更新)